話すのは苦手と聞いていましたが、実はとても楽しい方でした。
株式会社マイソフトは、東京都八王子市にあるIT企業。
技術の確かさを武器に、システムやソフトウェアの開発に取り組む「技術屋集団」です。
代表取締役の藤田功さんと仕事の指導をしていただいた澁井広子さんにお話をうかがいました。
職場実習レポート 7 - 株式会社マイソフト -
実習を受け入れようと思ったきっかけは?
藤田さん 私には自閉症の娘がいます。ちょっと頑固で、かたくなで、手順を守らないと嫌がる。
そういうのを障害者というのかなあ。
そんな風に思っていました。
あるとき、エリザベス・ムーンのSF小説『くらやみの速さはどれくらい』に出会いました。
自閉症の人がコンピュータプログラミングの研究をしているという設定です。
この物語に刺激を受け、そして障害とはひとつの個性なんだ、という気づきを得ました。
そこでコンピュータに関心のある人がいるなら、私の会社でも雇用してみたいなと思っていたのです。
中小企業家同友会障害者問題委員会の勉強会に顔を出したのも、そんな理由から。そこでペガサスの木村さんの話しを聞き、まずは実習という形で障害者を受け入れられることを知り、「それなら、ぜひ」と。
そして、マイソフトでの実習を通して、自分は社会に取り残されているのではなく、生きていける場所があるのだと感じてもらえたら。そう思ったのです。
実習生には、どのように仕事を指導されたのですか。
藤田さん 実習生の条件は、プログラミングのスキルはなくても、コンピュータを使って事務作業ができること。
事務のサポートから取り組んでもらいました。
澁井さん 主に書庫の整理をお願いしました。
IT関連の雑誌や書籍が山積みなまま、手をつけられなかったのです。
1冊ごとに登録し分類するという作業でしたが、それを根気よく、黙々と丁寧にこなしてくれました。
その他には、給与計算など経理業務も補助してもらいました。
藤田さん 実習生は発達障害があり、記号など特殊な文字を認識するのが苦手だと聞いていました。
トム・クルーズのような感じかな。
現場にはそれを伝えて、わからないときは聞いてください、とお願いしました。
質問があるときは、都度、声をかけてくれ、手を止めることなく粛々と作業をしていましたよ。
まじめな方でした。
渋井さん 仕事の指示をするときは、手順と優先順位をきちんと伝えるように心がけましたが、特に問題はなかったと思います。
何より業務態度が本当にすばらしかったし、仕事を通して能力の高さに感心しました。
一緒に仕事をしてみて、どのように感じられましたか。
澁井さん 私は小学校の教師の経験があります。
クラスに発達障害の子どももいました。
その頃、この子たちが大きくなったときに雇用が増えているといいな、と思っていましたから、今回、職場は変わっても、そのことに関われると知って、とても嬉しかったです。
実習生は、ワイワイと話す環境は苦手だと聞いていました。
でも、実際にはとても楽しい方でした。
ときどき雑談にも入っては、おおまじめな顔で冗談を言うんです。
それがすごく面白かったです。
私も普段、話しをしながら仕事ができるタイプではないのですが、一緒に仕事する中で仲良くなって、もっと自然にいろんな話しができたらよかったです。
障害者雇用について、どのように考えておられますか。
藤田さん 精神障害や発達障害の方については、コミュニケーションへの不安から雇用をためらう企業もあると聞いています。
でも、どのようなコミュニケーションが必要なのでしょうか。
当社のような技術屋の世界では、チームを組むときは「ここはこうしたほうがよいのでは」というアイデアを出し合い、コンセンサスがとれたら後は自分の担当業務を黙々とこなす。
うちにもめったにしゃべらない寡黙な社員がいますが、普段は話さなくても技術の話しになると、口をぱっと開きます。
「うちの会社には、どこからどこまでのコミュニケーションが必要か」。
それを考えた上で障害者雇用について検討してはどうでしょうか。
これから実習を体験する人たちへ、
そして実習の受け入れを検討している
企業の方へメッセージをお願いします。
藤田さん 皆さんには、自分はどんな仕事をしたいのかをしっかり考えてほしいですね。
そして、その仕事をするためにはどのような知識、バックボーンが必要なのかを考え、それを身につけた上で就職活動をする。
今は自信がなく、いろいろなことにチャレンジできないと思っているかもしれません。
でも、スキルや知識が自信の裏付けになりますよ。
澁井さん 私も、前職が教師でしたから、「就活」というのはマイソフトに入社するときが初めてでした。
その経験を通して自分を知るということが大切だなと思っています。
皆さんは、就職活動の前に自分の特性、強みや弱みを考えておられると思います。
そのときは、苦手なことよりも得意なこと、自分のいいところをたくさん見つけてください。
それが活きる職場が見つかりますように。そう願っています。